InternetWeek2012 で開かれた “OpenFlow Trema ハンズオン” に参加してきました。
講師 : Trema 開発チーム 鈴木一哉さま, 高宮安仁さま
開催日 : 2012年11月21日
OpenStack の Quantum Plugin として Trema が扱えるという話だったので興味を持っ たのがきっかけです。また Ruby で簡潔にネットワークをコード化出来る、という点も 個人的に非常に興味を持ちました。OpenStack, CloudStack 等のクラウド管理ソフトウェ アが提供する API といい、Opscode Chef, Puppet 等のインフラソフトウェア構築フレー ムワークといい、この OpenFlow もインフラを形成する技術を抽象化し、技術者がコー ドを書くことでインフラ構築を行える、という点ではイマドキだなと思います。
Google は既にデータセンター間の通信を 100% 、OpenFlow の仕様に沿った機器・ソフ トウェアをを独自に実装しさばいているそうですし、我々が利用する日も近いと想像し ます。
OpenFlow のモチベーション
OpenFlow の登場には理由が幾つかあって、既存のネットワークの抱えている下記の幾 つかの問題を解決するためです。
- 装置仕様の肥大化
- 多様なプロトコルが標準化
- 装置のコスト増大
- ある意味、自律したシステムが招く複雑さ
一方、OpenFlow を利用すると..
- コモディティ化された HW の利用が可能
- OpenFlow はコントローラ (神) が集中管理するので楽な場合もある
- ネットワーク運用の自動化が図れる
- アプリケーションに合わせた最適化
- 柔軟な自己修復
等のメリットが。
OpenFlow と Trema とは?
OpenFlow は ‘OpenFlow コントローラ’, ‘OpenFlow スイッチ’ から成る。OpenFlow コ ントローラと OpenFlow スイッチの間の通信は OpenFlow プロトコルでされる。今日の 話題 Trema はこの..
- OpenFlow コントローラのフレームワーク
- エミュレータ
- trema コマンド
のセットである。自宅の PC 一台で OpenFlow プログラムが行え、エミュレーションも 行える手軽さ、また Ruby による簡潔な記述が可能でプログラミング初心者でも扱いや すい、という趣味ユーザにはもってのほかだ。
Hellow, Trema !
早速 プログラミングの初歩、Hello World から。
コード hello-trema.rb は
class HelloTrema < Controller
def start
puts "Hello, Trema!"
end
end
実行…
% trema run hello-trema.rb
Hello, Trema!
Trema が提供する Controller クラスを ‘継承’ し HelloTrema クラスを定義した。 Controller クラスには幾つものハンドラが用意されていて start ハンドラもその一つ。 他にも色んなメソッドが用意されている。詳しくは後ほど。
Trema によるスイッチの起動
次にスイッチを起動してみる。Trema は ruby の DSL でコンフィギュレーションを定 義出来る。hello-switch.conf として下記の内容…
vswitch { dpid "0xabc" }
vswitch { dpid "0x1" }
vswitch { dpid "0x2" }
hello-switch.rb として
class HelloSwitch < Controller
def switch_ready dpid
puts "Hello #{ dpid.to_hex }!"
end
def switch_disconnected dpid
puts "Killed ! :D #{ dpid.to_hex }!"
end
end
実行すると
% trema run hello-switch.rb -c hello-switch.conf
Hello 0xabc!
Hello 0x1!
Hello 0x2!
となる。スイッチを3つ起動したわけだ。switch_ready とは Trema が提供するコント ローラで定義された “スイッチが稼働した時に実行されるハンドラ” だ。スイッチが起 動したため “Hello ..” なるメッセージが出力された、と理解すればいい。
またこの起動中に
% trema kill 0x1
Killed ! :D 0x1!
と実行することでスイッチを停止出来る。この際 switch_disconnected ハンドラが実 行され上記のメッセージを出力したというわけだ。また逆に再稼働させるには trema up コマンドを用いる。
その他のハンドラ一覧
紹介した start, switch_ready 等のハンドラ以外にも下記のモノがある。
start switch_ready switch_disconnected packet_in flow_removed port_status
openflow_error features_reply stats_reply barrier_reply get_config_reply
queue_get_config_reply vendor
ドキュメントは
http://rubydoc.info/github/trema/trema/master/frames
にあるので参照すると良い。
L2 スイッチの実装
OpenFlow はネットワーク機器を実装出来るモノなので、ここで L2 スイッチを実装し てみたい。L2 スイッチの動作は
- 既に ARP テーブルを持っていればパケットを受け流す
- 自分の ARP テーブルで管理されていないパケットは学習してからパケットを受け流 す
が基本だ。これを実装する。
l2-switch.conf として
vswitch { dpid "0xabc" }
vhost ("host1") {
ip "192.168.0.1"
netmask "255.255.0.0"
mac "00:00:00:01:00:01"
}
vhost ("host2") {
ip "192.168.0.2"
netmask "255.255.0.0"
mac "00:00:00:01:00:02"
}
link "0xabc", "host1"
link "0xabc", "host2"
ここでは detapath_id “0xabc” なる仮想スイッチを一つ定義し、サーバホスト host1, host2 を定義した。それぞれで IP アドレス・MAC アドレスを定義している。また link により仮想スイッチとサーバホストの I/F を接続している。
いよいよ L2 スイッチのコード。l2-switch.rb として、下記を記述する。
require "fdb"
class LearningSwitch < Controller
def start
@fdb = FDB.new
end
def packet_in dpid, message
@fdb.learn message.macsa, message.in_port
port_no = @fdb.lookup( message.macda )
if port_no
flow_mod dpid, message, port_no
packet_out dpid, message, port_no
else
flood dpid, message
end
end
def flow_mod dpid, message, port_no
send_flow_mod_add(
dpid,
:match => ExactMatch.from( message ),
:actions => ActionOutput.new( port_no )
)
end
def flow_mod dpid, message, port_no
send_flow_mod_add(
dpid,
:match => ExactMatch.from( message ),
:actions => ActionOutput.new( port_no )
)
end
def packet_out dpid, message, port_no
send_packet_out(
dpid,
:packet_in => message,
:actions => ActionOutput.new( port_no )
)
end
def flood dpid, message
packet_out dpid, message, OFPP_FLOOD
end
end
まず実行してみる。
% trema run l2-switch.rb -c l2-switch.conf
異なる shell でパケットの送信と状態表示を行う。
% trema send_packet --source host1 --dest host2
% trema show_stats host1
ip_dst,tp_dst,ip_src,tp_src,n_pkts,n_octets
192.168.0.2,1,192.168.0.1,1,1,50
% trema send_packet --source host1 --dest host2
% trema send_packet --source host2 --dest host1
% trema dump_flows 0xabc
NXST_FLOW reply (xid=0x4):
cookie=0x2, duration=67.343s, table=0, n_packets=0, n_bytes=0, priority=65535,udp,in_port=1,vlan_tci=0x0000,dl_src=00:00:00:01:00:02,dl_dst=00:00:00:01:00:01,nw_src=192.168.0.2,nw_dst=192.168.0.1,nw_tos=0,tp_src=1,tp_dst=1 actions=output:2
cookie=0x1, duration=70.339s, table=0, n_packets=0, n_bytes=0, priority=65535,udp,in_port=2,vlan_tci=0x0000,dl_src=00:00:00:01:00:01,dl_dst=00:00:00:01:00:01,nw_src=192.168.0.1,nw_dst=192.168.0.1,nw_tos=0,tp_src=1,tp_dst=1 actions=output:2
host1 から host2 に対して trema send_packet で通信を行い、host1 の状態を表示し た。また交互に通信をさせフローをダンプしたのが上記だ。
一番基本なところらしいので、コードを詳しく解説。l2-switch.rb の下記の部分。
def packet_in dpid, message # ---(1)
@fdb.learn message.macsa, message.in_port # ---(2)
port_no = @fdb.lookup( message.macda ) # ---(3)
if port_no # ---(4)
flow_mod dpid, message, port_no
packet_out dpid, message, port_no
else # ---(5)
flood dpid, message
end
end
(1) では packet_in ハンドラを利用した。(2) で fdb (floating DB) の learn メソッ ドで port と mac アドレスの学習を行った。(3) で @fdb にすでに mac アドレスの記 述があれば port_no に値が入る。値が入っていれば (4) を。スイッチのフローテーブ
ルを更新しパケットを packet_out する。入っていなければ (5)を実行しパケットを flood する。
flow_mod, packet_out, flood はこのプログラム内で定義しているプライベートなメソッ ドだ。
この時のソフトウェア構成
このコードを動作させた際に実行したホスト上のプロセスを見てみた。
- ovs-openflowd
- phost
- switch_manager
が居た。siwtch_manager が 6633 番ポート待ち受けているコントローラ自身だろう。 phost は仮想サーバで ovs-openflowd (OpenvSwitch) が仮想スイッチとして動作して いると想像出来る。またこの時にネットワークインターフェースが
- trema0-0
- trema0-1
- trema1-0
- trema1-1
と起動していた。これは 0xabc スイッチと host1, host2 との接続で使われている I/F だろう。
まとめ
Ruby で記述出来るので技術者にとって Trema は優しい。また簡潔な記述が行えるとい うのも Ruby ならではだろう。github.com には高度な利用サンプルが幾つか掲載され ている。
https://github.com/trema/apps
また簡単なサンプル集ということであれば
https://github.com/trema/trema/tree/develop/src/examples
がうってつけのリファレンスになる。
冒頭でも書いたがスイッチのエミュレータが同封されているので、技術者はすぐに開発 に入ることが出来る。
OpenStack は仮想マシンを管理・構成するため API を提供し、そしてネットワークを管理・ 構成するため OpenFlow がある。OpenStack の API を叩くコードを書くのと同様に OpenFlow を Trema という OpenFlow コントローラフレームワークを用いてコードを書 くことが出来る。インフラエンジニアの仕事の範囲は確実にここ数年で変化し、その変 化に追いつくには “コードを書く” ことを念頭に置かなくてはならないだろう。
最後に、この機会を与えてくださった 鈴木様・高宮様にお礼を申し上げます。